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大阪高等裁判所 昭和40年(ツ)100号 判決 1967年1月30日

上告人 平松クマコ

右訴訟代理人弁護士 花房節男

被上告人 平田平三郎

主文

原判決を破毀する。

本件を大阪地方裁判所に差戻す。

理由

上告理由第二点について。

原判決の事実の摘示によれば、上告人が本件の土地建物を占有しているかどうかに関しては、被上告人は、「上告人は昭和三七年六月二六日以来被上告人所有の本件土地上に本件建物を所有して右土地を占有している。」と主張しているだけで、そのほかには、上告人が右建物を現実に直接占有しているのか、第三者をしてこれを占有せしめて間接に占有しているのか、又は第三者に占有せられている等全然その占有をしていないのか、その点を明らかにする別段の主張をしていないのに対して、上告人は、「上告人が被上告人主張の日に本件建物をその所有者訴外内藤喜孝から譲り受けたことは認める」が、「上告人が本件建物の所有者となりこれが引渡しを受けようとしたところ、被上告人は本件建物に通じる唯一の通路である訴外山下幸夫所有の工場を不法占拠して右工場に施錠し、本件建物に出入ができないようにしていた。そこで上告人は訴外深井美保子に依頼して被上告人に対し、本件建物が使用できるようにすることを依頼し、その交渉をしていたが、被上告人は本訴を提起した。」というのであって上告人が本件建物につき直接占有も間接占有もしていない旨を主張している。

しかるに、原判決はその理由において、「上告人が本件土地上に本件建物を所有して右土地を占有していることは当事者間に争いがない。」と認定しているほかには、上告人が右土地上の建物を現実に直接占有しているのか、第三者を通じて間接占有しているのか、または全然これを占有していないかについては何等の認定もすることなく、「上告人による買取請求権の行使により本件建物は被上告人の所有となったので、上告人の建物収去義務は消滅し、上告人は被上告人に対し本件建物の明渡義務を負う。」旨の判断を示し、原判決主文第二項のとおり、「上告人は被上告人に対し、被上告人から金三六三、〇三四円(本件買取代金)の支払いを受けるのと引換えに、本件建物(その敷地とともに)を明渡せ。」との判決をしている。

しかしながら、右原判決の事実の摘示から明白なように、上告人が本件建物を占有していることについては被上告人において何らの主張がなく、上告人においてこれを否定しているのであるから、右占有の点は、当事者間に争がある場合であるのか、上告人が占有していないことを被上告人において争わないものと認めるべき場合であるのか、或は上告人が占有していないとしても、それは、未だ本件建物の前主内藤喜孝から引渡を受けていない(上告人主張の被上告人が右引渡を妨げているかどうかは別として)ことによるのか、又既に第三者(場合によっては被上告人もありうる)の占有に帰していることによるのか、いずれにせよ、本件建物に対する上告人の占有の有無及び占有の態様を認定した上でなければ、上告人に対して本件建物引渡土地明渡を求める被上告人の請求はこれを認容すべきかどうか及びどのような態様の占有移転を認容すべきであるかこれを決定することができないものといわなければならない。原判決が、右結論の判断をするに必要な前提事実の存否についての審理認定をしないで原判決主文第二項のとおり判決したのは、理由不備且つ審理不尽の違法があるか、又は判決主文に影響のある理由の食い違いの違法があるものと云うべきであって、論旨は爾余の点に関し論及するまでもなく理由があるから原判決はこれを破毀して、本件を原裁判所に差戻すべきものである。

よって、民訴法第四〇七条第一項を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 坂速雄 裁判官 長瀬清澄 輪湖公寛)

<以下省略>

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